最近、改めて広告関連の仕組みに携わる機会が増えました。
というのも、2021年以降、アドテクの仕組みそのものに影響するような事があると予測されるからです。特に、Apple社のATT(App Tracking Transparency)の対応や、cookieの取り扱いも同様だと思います。

私自身、アドテクをはじめ、広告業界での仕事は、15年以上前から携わっています。
15年前というと、インターネットが普及し、世間ではブログやSNSがではじめました。
その頃の広告は、まだまだネット広告以外が主流でした。
テレビCMを主軸に、新聞や紙媒体の広告、更には看板をはじめとした屋外広告など。
渋谷のスクランブル交差点のサイネージなども、既に存在していました。

実は、ターゲティング広告は、インターネット広告が普及する以前からあり、よくあるのが、ポスティングや電話勧誘などでしたが、これらを実施するために、名簿屋なる存在があり、富裕層向けの顧客リストなどが、出回っていた時代でもありました。

しかし、広告の主流は、認知型と呼ばれる広告がメインで、莫大な予算を基に、ひたすら認知をあげていく。といった手法でした。

  広告の目的と手法

そもそも、広告とは、何のためのものでしょうか?
大きく分けて、2つの目的があり、その目的達成のための手段として、複数のアプローチ手法があります。

・ブランディング向上のため
・顧客獲得のため
・売上向上のため

これらの目標は、製品のライフサイクルと連動して、広告手法も異なってきます。
一番解りやすい例で言うと、シャンプーや洗剤の広告をイメージしてみてください。
新商品の場合は、そのブランド認知を上げるために、あえてターゲットを絞らずに広告を展開します。
そして、認知度が上がったタイミングで、顧客獲得のために、口コミやインフルエンサーを活用するなどして、潜在顧客の獲得を行います。
最後に、売上向上のためには、クーポンやキャンペーンなどで売上により繋がりやすい広告手法を使うことで、売上を上げていきます。

この3ステップが、長年の広告業界での上等手段でした。
これ自体は、製品のライフサイクルと合わせて考えれば、当然の事であり、製品やブランド寿命と合わせて最適な手法でもありました。

  アフェリエイトやインフルエンサー

しかし、2005年頃から、ターゲティング広告・レコメンド型広告といったものが、出始め、更にはアフェリエイトという仕組みが登場しました。
このころから、広告の目的よりも、手法がクローズアップされる機会が増え、費用対効果(ROI)を可視化することが、当然である。といった風潮になりました。

また、インターネット広告の分野で、アクセス解析という分野が確立しはじめ、ターゲティング広告コンテンツマッチ広告といった、ユーザーの嗜好性に合わせた広告手法も登場しはじめました。

そして、最近では、インフルエンサーを活用した広告なども目立つようになり、今まで以上に、費用対効果(ROI)を明確化することが、広告の正義である。といった風潮が強くなりました。

しかし、過剰なアフェリエイトや、インフルエンサーを活用した広告手法は、ユーザーに、広告不信をあおる事となり、結果として、広告のもつ価値そのものを、落とす事となってしまっているように感じます。

  ターゲティングの意味

広告は、先にも書いたように、その目的を明確にし、その目的を達成するための手段として、
ターゲティング広告といった手法は、効果があるように思います。

しかし、残念ながらその結果として、アフェリエイトなどと同様に、広告に対する不信感や嫌悪感を増長させることとなってしまいました。
CPAという言葉は、広告業界以外の人でも聞いたことがあると思います。

1件のコンバージョン(商品購入や顧客獲得など目的達成)を行うためにかかった広告費用の事です。
セグメントという言葉も、最近ではよく使われますが、要は顧客の趣味嗜好性毎にグルーピングしたものです。
CPAが低ければ、広告費は下がるので、利益があがります。
CPAを下げるための手法として、ターゲティング広告が使われることが多く、結果として、それは製品のライフサイクルやブランド力を下げてしまっているように感じています。

どういうことかというと、製品は、利益を得るための手段であり、製品を売るということは、
製品をつくる原価や、製品を売る販管費を下げることで、利益を最大化させます。
この販管費を短期的に下げ、短期的な売上拡大を実現することが、現代の広告業界のなかで、正義とされています。

世間では、ビジネスの変化のスピードが格段に早くなった。と言われていますが、本当にそうなのでしょうか?
人は、この30年で、それほど進化したようには感じません。

高級車を例に考えてみてください。

もしも、高級車の販売額を短期的にあげたければ、富裕層に向けたターゲティング広告を展開することで、CPAはさがります。
そして、短期的には販売額があがるかもしれません。
しかし、それは、高級車の製品としての生涯価値を下げる可能性もあります。
実際に、車の免許を持っていない未成年などは、ターゲティング広告で、対象外となります。
それによって、この高級車の広告を目にする機会は減り、結果として未来の購入者を減らしてしまっていることにもつながりかねません。

  時代の変化のスピード

「時代の変化のスピード」という言葉を、よく耳にしますが、本当に変化しているのでしょうか?
30年、50年、100年といった単位でみれば、産業も人も変化していると感じます。
しかし、平成と令和。何か、変わりましたかね?人自体が。

私からすると、「時代の変化のスピード」というのは、人々の言い訳に聞こえてなりません。
この数年、目先の利益や目的に囚われてしまい、時代を創る。といった目的でビジネスを行っている日本企業を、知りません。
ただ、知らないだけならいいんですが、もしかしたら、ないのかもしれません。

例えば、ベンチャー企業であれば、5年や10年以内のIPOを目指す。
というのがセオリーなようですが、企業が目指すべく目的は、IPOなのでしょうか?

そして、これらの原因には、金融業界や投資家の資質の問題もあると思います。
お金は大切ですし、企業は営利目的であって、よいと思います。
しかし、その根底に理念や想い。更には、未来に対するバトンのようなものがなければ、それは時代の破壊者でしかないと思います。

  今だからこそのターゲティング

最近は、多様性の重んじる傾向が、今まで以上に強くなっています。
それ自体の賛否は、色々と思うところはありますが、一人一人が、様々な人生の可能性を拡げることは、大賛成です。
私は、広告は、人にとって有意義である存在であってほしいと思っていますし、本来はそういうものであるとも思っています。
広告とは、情報伝達の手段であって、情報を伝えるということは、人の成長を促す事にもつながります。

一方で、最近では情報過多という言葉もよく耳にすると思いますが、人々が日々、触れることのできる情報の量が、爆発的に増えています。
これは、ネットやSNSによって、情報伝達手段が飛躍的に増えたことによるものです。
結果として、情報選択が、様々なシーンにおいて、とても重要な役割を担うようになりました。
私は、この情報選択こそが、広告の一番の目的でもあり、ターゲティング広告の効果が最大限発揮できるものであると思っています。

私は、正直なところ、インフルエンサーや口コミの広告を、少しでも早くやめるべきだと思います。
そして、芸能人を使った広告なども、好きではありません。
広告とは、製品やサービスの価値を向上させるものであるべきだと思っています。
そして、広告という手法そのものの信頼性を上げることが、これからのターゲティング広告にとって、非常に重要なポイントであると思います。

ユーザーは、そんなにバカではありません。
インターネットの仕組みなども、この20年ほどで、より多くの人が知ることとなりました。
ターゲティング広告は、本来、人のためになるものであると思っています。
一人一人の生活スタイルに対して、様々な知恵や情報を的確に届けてくれる。情報過多の時代で、自分にあった取捨選択を実施してくれるものであるとも思います。

だからこそ、ターゲティング広告は、信頼性を取り戻すことが、最大のミッションであると思っています。